勇者と呼ばれた男のブログ

勇者と呼ばれた男の半生を綴ります。初めての方は一番初めの記事の「初めに」をお読み下さい。

勇者の半生【中学生編】~第20話後編

 

今日は楽しかった。

友達と屋台でたらふく食べてわいわい騒いで。

女の子に携帯番号も聞かれて、携帯持ってなかったからコケたけど。

 

そんな余韻を噛み締めながら床に着いてしばらく、

どうも様子がおかしい。

 

リビングの電気は付けっぱなし。

いつもなら父も隣の部屋で寝るはずだがまだ来ない。

家の前が何やら騒がしい。

家に次男もいたので聞いてみると

四男が帰ってこない、父と約束して遊びに行ったのに。

それは大事になりそうに思う。

窓から家の前を見下ろすと長男も来ていた。

それと知らない人が数人。

また明が家出をした時のように大人数で探し出されるのだ。

しかしいつもは優しい長男が今日ばかりは怒りを表情に浮かべていた。これはどうした事か。

次男も気になるようで一緒に下に降りて様子を見る事にした。

誰と話すでも無くただ無言で物々しい雰囲気に居心地の悪さを感じていると長男の携帯電話が鳴る。

 

長男の言うことには四男は見つかったようだ。

中学校の裏手にある神社で友達といる所を探している人間に見つかったらしい。

とりあえず見つかったなら帰ってくるだろう。

後気になるのは長男の様子がいつもと違う事だ。

家に上がるのは四男が帰ってきてからにしよう。

次男とどうなるかなんて話をしながら待っていると大きな車が家の前に止まり、そこから四男が降りてきた。一緒にいたであろう友達も一緒に来ていた。

 

長男は先ず四男とその友達にしっかりとした説教を与える。

父との約束を破るとはどういう了見だ、その年で遊んでちゃいけない時間に誰も帰ろうと言わなかったのか、それでこれだけの人に迷惑がかかることも考えなかったのか、

強目な口調でそんな事を言っていた気がする。

自分はちゃんと時間を守ってて良かったと思う。

 

話も十数分してもう済むかという所で長男はいきなり四男の首根っこをつかんで投げ飛ばす。

え?と思うも束の間、そこからは四男に殴る蹴る。

途中角材なんかも持ち出して頭を横から振り打つ。

死ぬんじゃないかと思ったが長男の見た事の無い怒りの様相に体が全く動かなかった。

それは隣にいる次男も同じようだ。

 

四男の友達も気を付けの状態で全く動けずにただ黙って四男が打ちのめされていくのを見届けていた。次は自分がなんて考えただろう。下手したらあり得る。

四男が助けてと叫ぶも皆動けない。 それほど長男には鬼気迫っていた。

やがて台風が過ぎその目が四男の友達に

四男が悪い事してたら止めてやってくれよと言い皆良い返事をする。

 

長男はじゃと短い挨拶だけして自分の車に乗り込む。

四男の友達も乗り込ませて送ってやるようだ。

あっという間の出来事に明は放心状態だったがはっと四男に目を向ける。

 

四男は意識はあるようだが項垂れるように座ったまま動かない。

とりあえず次男と一緒に部屋を運び上げ濡らしたタオルを渡してやる。

すると、

俺今日何してたんだ?何で長男にぶっ飛ばされてたんだ?

まさか、記憶が飛んでいるのか。

テレビや漫画じゃあるまいし。

しかし体と声を震わせながら聞いてくる様に嘘は感じられなかった。

明は何て言ってやれば良いかわからなかったが、お父さんとの約束を破ったから殴られたんだと教えてやった。

なんとも痛ましい姿が見てられないので明はそそくさと部屋へ戻る。

楽しい1日に何て物を見てしまったんだと明はどっと疲れてしまいさっさと寝る事にした。

長男は絶対に怒らせないようにしよう。

そう誓いながら。

 

勇者の半生【中学生編】~第21話に続く

勇者の半生【中学生編】~第20話中編

 

提灯が祭で賑わう神社を照らす。

小さな特設ステージで子供会の子達がカラオケ大会をしていた。

いかついおっちゃん達の屋台に人が並ぶ。

明とTはまずは型抜きで遊ぶ。

型抜きとは三センチ四方程の板菓子でその上に溝を掘って絵が書かれている。

この溝を画ビョウで掘り進め絵を割る事無く文字通り型を抜き切ったら賞金がもらえるのだ。

絵の形によって難易度が設定されており最高は10000円の物もある。

明とTはどちらも賞金1000円の物だったがこれでも勝てば儲け物だ。

せっかく遊びに来たのに無言で集中してしまう二人は中々順調に掘り進めていく。

これが結構難しく慣れないとすぐに画ビョウに力が入って真っ二つに割れてしまう。

Tは慣れているようで半分程型を抜いていた。

その頃明は何と半分以上、Tを越えるペースで型を綺麗に抜いている。

その二人の手技に同じ型抜きをしている子供達も手を止め見物していた。

ここでTが痺れを切らせたのか絵の部分を欠けさせてしまう。

何とも悔しそうに頭を抱える姿を見て明は笑いながら、かつ順調に型を抜いていく。

後もう少しだ。

絵の細かい部分はやはり難しく少しずつ丁寧に画ビョウで化石を掘るかのように手をつけていく。

その集中した様が面白くなかったのかTが自分の画ビョウをおもむろに明の型抜きの絵に突き刺した。

一瞬周りが無音に感じた。

音もなく割れる型抜き。

後少しで1000円だったのに。

このやろうと叫ぶもTから腹減ったからタコ焼食おうぜと言われどうも力が抜けてしまう。

そうだTはこういうやつだった。

良いやタコ焼食べてみたかったしと自分で自分を嗜め、割れた型抜きを食いながらタコ焼の屋台に並ぶ。

 

屋台に並び自分の番という所でふと屋台のおっちゃんが明に喋りかけてきた。

◯◯さんの坊っちゃんじゃんか。

親父さん元気か?タコ焼なら金は良いや。代わりにちょっとコンビニでビール買ってきてくれ。

パンチパーマにサングラスでいかにもなおっちゃんにいきなりお使いを頼まれ明とTは一時固まる。

白の作務衣から見える地肌は消えない落書きでいっぱいだ。

怖ええ。

しかしタコ焼一パック500円がただになるなら、コンビニも近い。

良いですよと返し万券一枚を預り二人でコンビニへ向かう。

途中Tが「これ持ってどっか遊びいくか?」と言い出したがバカ言うなと諭した。

未成年なのレジでお使いですと伝え目的のビールを買いさっさと屋台に戻る。

引き換えにタコ焼を二人分もらい更になんとビールの釣り銭までもらってしまった。

太っ腹なおっちゃんもいたもんだ。

親父さんによろしくと言われたので是非伝えておこうと胸に刻む。

Tと二人で釣り銭をきっちり分けホクホク気分でタコ焼を頬張る。

初めて食べるタコ焼の旨さに感動した明は他の屋台も気になってきてしまう。

それに食べ盛りの中学生がタコ焼だけで満足なんてできる筈がない。

財布は潤っている。

Tもあっという間にタコ焼を平らげ更に食う気満々だ。

子供達の歌をBGMにご機嫌な晩餐が始まる。

焼きそばにお好み焼き、味噌ダレをかけたこんにゃくおでん、このおでんが旨くて追加で更に一本食う。

明は友達と遊びながら食う祭の晩飯を心底楽しんでいた。

そう言えば四男が来てるらしいが見当たらないな。

そう大きくない神社で見掛けないという事は来てないのだろうが明はそんなに気にしなかった。寧ろいない事に安心していた。

一頻り食べた後に少し座って休憩していると他の同級生も見かけるようになり皆でわいわいと話込む。

 

これが中々楽しかったのか気づけば思ったよりも時間が過ぎていた。

Tの携帯電話で時間を見ると既に夜の21時を回っている。

子供会のカラオケ大会も終わり後は屋台で何か食べながら大人達の酔いっ振りを見るぐらいか。

しかし明は同級生と話している時に別のクラスの女子に携帯の番号を聞かれ、携帯電話を持っていなかった為思春期を充実させる絶好の機会を逃していた事に落ち込んでいた。

この後明が青春を謳歌できる時は三年後、高校2年生になるまでやってこない。

 

それを見て笑うTともう十分楽しんだからそろそろ帰ろうかと話すとどうやら同じ事を考えていたようで最後まで気の合う友達と遊べた事に満足しながら帰路へついた。

 

祭の余韻に浸りながら家へ上がりただいまと声を上げると父もお帰りと返してくれた。

門限を守り帰ってきて普通にしていればそう怒られる事も無いのだ。

大体今回は父から許可も得ているので堂々としていられる。

明は中学生活一番の楽しかった1日を実感していた。

屋台のおっちゃんの事も伝えて風呂に入りさっさと部屋に戻り寝るまで本でも読むとしよう。

 

そろそろ寝ようかという頃合い、

ここで平和な筈の1日の終わりに1つの問題が生まれた。

 

23時を過ぎても四男が帰って来ない。

 

勇者の半生【中学生編】~第20話後編へ続く

勇者の半生【中学生編】~第20話前編

 

東京都内田舎の秋

生まれた町の神社で毎年恒例の秋祭りが開催される。

小さい頃には兄に連れられて良く行っていた。

縁日の屋台には憧れていたが父は屋台の食いもんなんて食うなと言っていたのでたこ焼きや綿菓子を食べた事は無い、それでも周りの騒がしい雰囲気がどうも楽しかった。

そんな祭りに一緒に行こうとTからお誘いがかかる。

Tは明の小学生の頃からの友人で明が家出した時に匿ってくれたりいつも気にかけてくれるクラスの人気者だ。

そんなTと祭り。是非行きたいと思うが果たして父は許可してくれるだろうか。

明は父と住むようになってから遊びに行きたい等と言った事は無かった。

基本許可は降りないしそもそも父の指示で学校以外は家で勉強と決められていた。

やっぱ無理かなあとごちながらも明は父と長男のやり取りをふと思い出す。

 

気を使わず何でも軽く話すあの空気。

 

ちょっと頑張ってみようか。

「行けたら行く」

 

学校が終わりまっすぐ家に向かって歩く。

この時明の頭の中は祭りの事しか浮かんでこないでいた。

父は許可してくれるだろうか。

いや無理かな。

しかし言ってみなければわからない。

勇気を振り絞れ明。

 

なんて事を考えながら歩いていると家の前。

丁度父も帰ってきた所で車を止めていた。

ただいまと帰りを報せると生返事が帰ってきた。

なんとなく。このタイミングだ。

「お父さん今度の神社の秋祭り行ってきて良い?」

言ってしまった。返事は拳で返ってくるか、それとも蹴りか、はたまたゴルフクラブか。

 

「おういいぞ」

 

許可が降りた。

まさかこんな簡単にいくとは思っていなかった明はえっ?と返してしまい断られるとばかり思っていたので何と言えば良いかわからなかった。 

「それで、小遣いが欲しい」

何を言っているんだ俺は。

調子にのって今度こそ殺られる。

「ん」

父は軽い返事で千円札を数枚明に差し出した。

「あ、ありがとうございます」

普段しない交渉の終わりはここだと察した明は礼もそこそこに家に入る。

心臓がまだバクバクしている。

普通に遊び行く話をして倅が親父に小遣いをせびる。なんて事ない普通の事だ。しかしどこの家でもやってるようなやり取りが明にとってはとても勇気のいる事であった。

そして何気に中学に上がってから父に小遣いをもらったのはこれが初めてだ。

大事に使わなくてはいけない。

普段空腹の猛獣の世話をするように警戒している父に今日は心底感謝した。

勉強や家事手伝いにも身が入るという物だ。

何と珍しく父との勉強が終わった後にキリが悪いと自分一人でペンを走らせ続ける程。

祭り当日に雨でも降るんじゃないか。

 

そして迎えた祭り当日。

さあ今日は父に許可も得ている。

胸を張って堂々と遊ぼう。

ただし1つだけ条件が設けられた。

「11時までに帰ってこい」

法律で定められた深夜徘徊に当たる時間は避けなければならない。まあ当たり前だ。

どうやら四男もこの祭りに来るようで父から同じ事を言われたらしい。

 

祭が開催される神社へは自転車で5分程。

遊ぶには十分な時間をもらった。

ありがとうパパ。

 

調子の良い事を考えながら祭が始まる夕方頃、現地で明はTと合流する。

 

今日は久しぶりに何も後ろめたい事もなく遊べる。

これが中学生のあるべき生活なのだ。

 

勇者の半生【中学生編】~第20話中編へ続く。

勇者の半生~番外編【鬼:その2】

 

次男の鬼エピソードはローキックだけじゃない。

今回の話は今でも兄弟で呑む時に話の鉄板ネタになる。

そんな次男の鬼畜っ振りを新たに紹介しよう。

 

 

中2の夏休みが終わり皆各々が進路に向かって努力の方向性を決めていた頃、明は次男に心を折られて自分の今後を考えられずにいた。

 

そんな中。そんな傷心気味な明に当てられる悪魔の声。

 

「明ちょっと来い。」

 

今度はなんだい?またローキックか?

学校が休みで父がいない時にかぎって次男が抵抗のしようが無いハーメルンの笛を吹く。

 

「はい」

 

昔から変わらない兄への返事。

次男の部屋へ行くと部屋の奥壁際にベッドがあり、更にその奥に窓が付いている。

 

「窓締めて」

 

舐めてんのか。俺が窓を閉めるより窓に沿って置かれたベッドに寝転ぶ次男が閉める方が早いじゃないか。

っと言いたかったが言えない。

そんな事口走ればまたあの鬼のローキックを見舞われてしまう。

 

悔しく思いながらも窓を閉める明。 

よし終わった。さっさと自分の部屋に戻ろう。

 

「ちょっと待って」

 

今度はなんだい?

 

もう本当に無茶な頼みは止めて欲しい。

子供ながらにストレスで胃が限界なんだ。

 

ハーゲンダッツ買ってきて」

 

おう。それぐらいならまだ許せる。

丁度家の前にコンビニがある。

買ってきてやるから好きな味を言うが良い。

 

「何が旨そうかわからないから見てきて」

 

一瞬明の頭が真っ白になる。

見てきて?それってハーゲンダッツの種類で何があるか見てこいと?

 

結構あるぞ。明がパッと思い付くだけで10種類を越えている。

 

しかし言われたからには成し遂げないと恐ろしい目に合うのだろう。

万が一の為にメモ帳を探そうとすると

「早く行け」

 

ふざけんなこの鬼め。

 

メモ帳を持つことも許されず己の頭だけで望んだコンビニのハーゲンダッツ品揃えへの挑戦。

 

見ればその種類は20数種類はあったか。

左上から右下までを順に頭に入れていく。

途中分からなくなって再度やり直す。

そうしてやっと明はコンビニに並べられたハーゲンダッツの種類を覚える事が出来た。

既に次男に頼まれてから一時間以上過ぎている。

早速家に戻り次男に何が置いてるかを伝える。

中々種類は多かったが一度頭に詰めて口から出せば良い。

そう思い頭の中から口の外へコンビニに置かれていてハーゲンダッツの味の種類をアウトプットしていく。

 

すると意地悪な次男がまたとんでもない事を言う。

 

「最後に言ったやつから7つ前のやつ買ってきて」

 

この時点で明の頭は沸騰寸前だ。 

気合いで覚えた順番から更に逆向きに7つ目?

そんなのすぐ思い出せるか。

 

欧米人も飲酒運転の検査でアルファベットを逆から唱えさせられるらしいがその難易度と良く似ている。

 

流し覚えなハーゲンダッツのフレーバーをもう一度覚えた順に唱え最後から7番目を拾い上げようとするが次男は

「早く!」

 

そんな怒号を飛ばされてしまいパニックに陥った明はどこまで数えたかも忘れてコンビニへ向かった。

 

そして結果。

明はハーゲンダッツの味を特定は出来ず何となく近かったであろうアイスを買って次男の手に届けた。

 

「言ったやつと違うじゃん」 

そんな事言われても困る。

間違えないようにメモ帳を持って行こうとしたのに止めたのは次男だし。

 

小学生の頃の誕生日と同じでこの後また買いに行かされるんだろう。

そう諦めじみた明に次男が

「◯◯買ってこい」

今度は味を指定しての命令だった。

父といい次男といい一頻りいじり痛め付けた挙げ句のこの微妙な優しさはなんなんだ。腹が立つ。

まあ買いに行くのだけども。

 

2回目のお使いも渡して口に入れるまでは安心できない。

「もう良いよ」

そう言われてやっと解放され自分の部屋に戻る。

 

あ~。疲れた。

 

 

きっとこれは頭がいくらなんでも悪すぎる明への教育の一環なのかも知れない。

ただこの頃の明にとっては嫌がらせ以外の何物でも無い。

 

自分にいつか舎弟のようなやつが出来たらうんと優しくしてやろう。

ガキながらに思う初秋の昼下がりであった。

 

 

勇者の半生~番外編【鬼:その2】  完

勇者の半生~番外編【帰ってきた鬼】

 

今日は土曜日。学校も休みだ。

二学期に入ってから住まいの形は変わったが父の監視の目が何故か軽くなっていて住み心地はさして悪くない。

これも長男パワーか?

明は休みだが父は出掛けている。四男も遊びに行ったので今日は自由にのんびり過ごせるぞと気も朗らかにいた。

 

しかし、今明の住む家には

 

「明、ちょっと来い」

 

鬼がいる。

 

 

つい先日帰ってきて一緒に住む事になった次男。

 

自分で金を稼ぎひたすら勉強し己の力だけで大学へ上がった努力家だ。

努力の方向は勉学だけではない。

鍛え上げられたその肉体はまるでK-1選手のように隆々としている。

 

そんな次男に呼ばれ部屋へ行くと

 

「ちょっとそこに立って太ももに力入れて」

 

嫌な予感がする。

何でと聞いても「いいから」と聞く耳を持たない。

半ば諦めつつ次男の言う通りの体勢を取る。

すると兄は力を入れている明の太もも目掛けてゆっくりとローキックを放った。

 

なんだゆっくりじゃないか

と甘く見た明は少し力を抜いてしまう。

それが間違いだった。

次男のローキックはゆっくりながらも完璧なフォームで力強く明の太ももを捉えた

その圧倒的な圧力に明は軸足を曲げられ倒れ込んでしまう。

 

なんだ今のは。奥義か。

ヤバイ逃げたい。

 

そんな明を他所に

「もう一度だ」

鬼め

 

今度は力をしっかり入れ構える。

それを見てニヤリと笑う次男

 

これが終わったらさっさと出掛けてやる。

早く終わりやがれ。

 

ドンっと勢いのある衝撃が明を襲う。

ここで本気とか無いわ。

 

左足を殺られた。

一発目は練習だったんですね。

 

「凄いだろローキック」

 

技の自慢の前に倒れた弟を心配しやがれ。

 

もう良いよと解放されホッと一息つくが明の左足は青く腫れていた。

 

鬼は弟を平気で蹴り技の実験台にしてくる。

そうだ次男はこういう人(鬼)だった。

 

はあと呆れる明の胸にはこれから先の生活への不安が立ち込めていた。

 

勇者の半生~番外編【鬼】  完

勇者の半生【中学生編】~第19話

 

長いはずの夏休みが、あっという間に終わりを告げた。

中学二年の二学期

受験に気合いをいれるタイミングとしては最も適した時期である。

 

夏休み中、父との鬼勉強会によって明は何とか平均点クラスの学力を手にしていたが今目の前にある問題に集中していた為、自分の進路など微塵も考えていなかった。

ただ漠然と

高校に行きたい。

医者になりたい。

ただそれだけでどれだけ地頭を鍛え学を修めなくてなくてはいけないか、高校はどこへ行くか、医大はいくらかかるのか等の計画が抜けていた。

 

そこへ次男の登場である。

次男が帰ってきてから少し話を聞いてみたが

次男はアルバイトをしながら高卒認定試験をクリアし大学受験を経て奨学金の力を借りて東京六大学の1つに入学していたようだ。

 

次男てそんな努力家だったのか。

そういえば体格もまるでこの頃流行っていたK-1先週末のように逞しくなっている。

先日次男のローキックを食らったが一発で床に倒れ込んでしまった。

 

閑話休題

次男がたゆまぬ努力を以て大学へ行った事を知り明は次男に自分が目指す所を語った。

 

医者になるにはどうしたら良いだろう。

 

答えは、無理。

明は頭をカチ割られた思いがした。

何で?と聞き返す。今思えばここで何でと聞き返すぐらいなら確かに医者になる為の努力は足りていなかった。

自分の能力不足ともう1つ次男が明に伝えたのは

経済的、社会的な問題だった。

父は会社を解体した今でも一般の給料よりはもらっている。だがそれでも足りない。

次男と三男はもう放っといても良いが男一人で四男と明に飯を食わせて学校に通わせていたら当時の制度を利用しても高校を出たら働く事になるか、大学は行くなら国公立だと。

この頃の頭では話の全てを理解出来ていなかったが要は金がないから医者にはなれないとの事。

 

落ち込む明に次男は特に励ます事も無かった。

 

こうなると明はやる気を無くしかけてしまう。

父に殴られながら続けた勉強も自分の夢に手が届かなければ無駄ではないか。

その夜、父に勉強を教えられている途中で明はため息をついてしまう。

もちろん怒られるのだがどうもペンを走らせる速度が上がらない。

父の再教育によって小学生レベルの学力を何とか平均近くまで戻せた。

しかし明のモチベーションはここから先に上がる事が出来ずにいた。

 

だがこの明に刺激を与える者がいた。

その男は今、遠く離れた奈良の地から原付を走らせ明の住む東京へ向かっている。

明がその事に気づくのはこの日から数日経っての事だった。

 

 

勇者の半生【中学生編】~第20話に続く。

勇者の半生【中学生編】~第18話

 

長男のお陰で父と四男と共に焼肉屋で和解する事ができた。

あの時食った肉は旨かった。

父と対等に話す長男を見ていて自分もこう話せたら変わる物もあるんだろうかと思ったがやはりそこまではまだ勇気が出ない。

父はこの距離感をどう思っているのだろう。

長男はそれを寂しいんだからと表現した。

いつか変わる時が来るだろうか。 

 

 

そしてその後はしばらく割りと平和に日が過ぎて行く。

これも長男が父に色々話をしてくれたからだろう。

 

 

夏休みは父と勉強漬けだった。

宿題は先にやらされ解けなかった所を後回しにして父が教える。

家での勉強会のスピードが目に見えて上がっているが何とか明は食らい付いていた。

そんな中四男が夜中に遊びに行ってるのが父にバレて怒られたりもしていた。

この頃学校での四男からの暴力にうんざりしていた明は少し気が晴れた思いだった。

 

もう夏休みが終わる。

青春のせの字も無い灰色の夏休みだったな。

 

夏休みに遊べなかった事を後悔していると父から衝撃の一言を食らわされる。

 

「次男帰って来るから2階を住めるように改築する」

 

頭を鈍器で殴られた気分だ。

次男が帰ってくる?明は小学生の頃に誕生日なのにも関わらずこき使われた事をずっと根に持っていた。

明が思う中で兄弟一恐ろしい男が帰ってくる。

更に2階で皆で住むだと?

寝ても覚めても父の監視から逃れる事が出来なくなる。

夜中に音を殺してアニメを見たり、

夜中に遊びに行ったりという発散が出来ない。

これからが本当の地獄だ。

M字ハゲの男がどこかでそう囁いた気がした。

 

そして運命の日

次男が帰ってきた。

夏休みなので明と四男も手伝って四人で父の事務所をリフォームする。

父に昔世話になったという人達も来たが全員恐ろしい体格をしている。

ていうか四男はともかく明は完全に足手まといだろう。

 

それでも仕事を振られるので何とか着いていくがものの数時間で手足は使い物にならなくなる。

結局ゴミの片付けが明の役目となる。

 

やがて作業が終わり2階の事務所は居住エリアに改装され大きな一間に壁を作り部屋分けとされた。

リビングとして使うエリアもある。

部屋割りは一番奥から父、明、四男、次男に決まる。

父に一番近い所は正直嫌だったが兄に逆らえないのでこうなる。

 

今思えば父から一番遠い部屋が良いなんて不憫な話だ。

 

こうしてビフォーアフターは無事に終わり後は元々住んでいた下の元居酒屋から自分達の荷物を運ぶだけだ。

ここで後は息子に任せられると思ったのか父は手伝いに来てくれた人達と一緒に飲みに行ってしまった。

 

とりあえず見送って荷物を運び始める。

次男は今日から住むので荷物は少ない。

四男は自分のギターや服等大事な物だけを持って後の布団やテーブルは明に振った。

わかってた。

 

リフォームから既に体力の限界を迎えていた明は何とか荷物を運び終えると自分に割り振られた部屋へ行き鉄骨と木材で作られたベッドに早速寝転がる。

仕切りがあるだけでドアも無い開放的な空間。

プライバシーもくそも無い部屋だが自分だけのベッドに自分専用の机が出来た事が少し嬉しかった。

 

そしてこの日の夕飯は次男が金を出し明が買い出しに行き四男が作る。

どこまでも酷使される明。

 

四男は食材を手際良く手を付け、あっという間に大皿一杯に唐揚げが作られた。

 

久しぶりの次男との飯はリビングのテレビを見ながら何とも会話の弾まない食卓となった。

テレビが無ければ気まずい空気になっていたろう。

大した話をする事も無く夕飯は終わり明は皿洗いも終わらせた。

 

少ししてから次男は着替えるとすぐに飲みに行ってしまった。

 

皆酒好きだな。あんなに不味いのに。

この頃明は酒が嫌いだった。未成年なので好き嫌いも無いが酔った人間の酷さを知っていたからだろう。

 

今日はもう疲れきった。

外の仮設シャワーで体の汚れと汗を洗い流しさっさと寝る事にしよう。

父が帰ってくる前に寝とけば何かあって怒られる事も無い。

寝る前に次男が帰ってきても何となく面倒な気がする。

 

シャワーを浴びた明は早速布団が敷かれた自分のベッドに飛び込む。

やっつけ仕事のようなベッドだが思ったより寝心地が良い。

これなら、すぐ、眠れる。

 

 

勇者の半生【中学生編】~第19話に続く